小説は、まず読んで面白いものでなければならない。
当然純文学もその例外ではない。
本作品は充分その基準を満たしている。
前回の芥川賞は明らかに話題作りを狙ったものであり、
そのあからさまな戦略に呆れたものだが、今回は深く納得できるものだった。
以前に、評判に促されて『アメリカの夜』を読んだときにも感心した。
蓮実重彦が大絶賛、というのもあながち嘘ではないのだろう。
阿部の小説を読んでいて感心するのは、そのバランスのよさである。
(全作品を読んでいないため全ての作品にあてはまるかどうかは分からないが)
恐らく、映画や小説に対する知識量は膨大なものなのであろうが、
それを嫌みったらしく用いることはない。
表立って大々的に使われることはないものの、
確かな見識と知識量がなければ使いこなせないような利用の仕方をしている。
そしてこれらを物語に挿入することで、充分に小説の娯楽性を高めてもいる。
賞賛に値する力量であろう。
また、全体の量が長くないことにも好感が持てる。
個人的には大作が好みなのだが、不必要に長いものは紙のムダだ。
書きたいことをコンパクトに表現できるのなら、長くする必要はない。
以上、手放しな賞賛のようだが、
実際にケチをつけるところが見当たらないのだから仕方がない。
強いて難点を挙げるならば、上手くまとまりすぎているところだろうか。
大作を書いて破綻をきたさなければいいが、という余計な心配があるくらいである。
この小説を評する言葉、
「ハードな文体」「J文学」「渋谷系文学」という批評は的外れだし
(そもそもこれらの言葉自体がお互いに矛盾してるだろう)、
「現代文学の臨界点を超えた」や
「時代が阿部和重に追いついた」というのは言い過ぎだろう。
最後に、巻末の東浩紀の解説には疑問が残る。
阿部の小説とは正反対にバランスの悪い内容及び文章である。
久しぶりに氏の文章を読んで愕然としてしまった。
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