青木雄二は高校の頃から読んでいたマンガ家だ。
ということは、もう十年以上彼の読者であることになる。
熱烈に好きなマンガ家ではなかったが、
『ナニワ金融道』は本の整理をする度になぜか売り飛ばすことのできなかった。
金融のカラクリが分かりやすく書かれていたのもその理由の一つだが、
しかし、私が手放すことが出来なかった主な原因は、
そこに青木雄二の世界観とでもいうべきものが展開されていたからだ。
それは、この本の中で呉智英も指摘しているように、
「サラ金が悪いからひっかかるな」という単純なものではなく、
「人間というものは多かれ少なかれ、みんな汚い」という世界観である。
そして、その思想の根底にあるのは意外なことにマルクスとドストエフスキー。
青木雄二のマンガでは、登場人物がこの二大巨頭の作品を読んでいたりする。
『ナニワ金融道』後、もはやマンガを描くことはなかったようだが、
エッセイや語りおろしは頻繁に発表し、僕はそれらを古書店で見かけるたびに
ついつい手にとってしまうのだった。
この本は、以上のいつも通りの青木雄二の姿勢を示しており、
竹中平蔵、菅沼栄一郎、呉智英、岸部四郎ら各界の専門家との対談で構成されている。
対談といっても、その出会いを通じ、
新しい切り口による面白い展開があったわけではなく、「想定内」の内容だったが。
勉強になったのは、鹿島茂との対談だ。
バルザックも青木雄二と同じように職を転々として金融にまつわる人間の暗部をいやというほど見てきたからこそ、『人間喜劇』が書けたらしい。
そしてバルザックの作品をさらにドストエフスキーが学んだ、というところは面白かった。
内容とは関係ないが、鹿島茂が講談社エッセイ賞を取ったという
『子どもより古書が大事と思いたい』(太宰のパロディだ)を読みたい。
『馬車が買いたい!』でサントリー学芸賞、『愛書狂』はゲスナー賞と、
私はこれまで鹿島茂にはそれほど興味が無かったが、高い評価をうけているようだ。
今後の楽しみにとしておこう。
私の薄い分野である、政治・経済関係の知識は非常に役に立ったが、
やはりこの本の面白いところは、
「僕は才能あったからマンガで成功したけど、
普通の凡人は今後の人生を真剣に考えなアカン。資本主義は間違っとる」
というような青木雄二の呟きにあるのだろう。
ゼニ論十番勝負―カネの修羅場を勝ち抜く鉄則100カ条 (広済堂文庫)
- 作者: 青木雄二
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