『shipbuilding』 / 冨田ラボ(2003年)

 冨田恵一のプロデュース・プロジェクト、冨田ラボ
 須永辰緒が自身のソロアルバムを作るときの名義が
sunaga t experience」であるのと同じことだろうか。
冨田ラボは、リミックス盤や雑誌などではよく見かけるのだが、
ソロアルバムを聴くのは初めて。期待して聴いてみた。


 F.P.M.やsunaga t experienceのように、一枚の中にヴァライエティに富んだ曲が溢れているのを想像したのだが、実際はそうでなく、一言でいえば「作り込まれたポップス」である。
それは、「造船(業)」を意味するアルバムタイトルや、
参加しているゲスト・ミュージシャンからも明らかだ。


 アルバムは、イントロの後、
なんと松任谷由美の「God bless you !」で幕を開ける(M-2)。まるでティンパン・アレイのようなサウンドは、
おそらくあの時代のポップスへのオマージュなのだろう。
何曲か松本隆が作詞しているし。
ブレイクのぎこちなさもそのままである。
この曲は中毒性があり、シングルカットしてもいいくらいだ。
こうしてユーミンに恋愛をけしかけられ、アルバムはハナレグミ畠山美由紀と続き、「恋に恋する若者」ムードはキリンジの「香と影」(M-6)で頂点を迎える。


 だが、saigenjiが登場し(M-7,8)、
ベースラインがモータウン色の強いものからフュージョン的なものに変わると、まるでウェザー・リポートのコピー・バンドが演奏しているかのような音になり、プログレ度が高くなる(そしてやはりsaigenjiスキャットを披露する。もちろんsaigenjiスキャットは僕もその価値を認めるが、ヴォーカルよりも、ギターよりもスキャットを求められてしまうことに少し同情する)。
そして、いまや無個性になってしまったbirdを挟み、そのまま不安定なコード進行が続くM-11で幕を閉じる。


一枚通して聴いてみた印象は、閉塞的なポップスか。
クレジットを見ると、ゲストを除くとギター、ベース、ドラムのプレイヤーがなく、冨田恵一が「instruments & treatments」となってるので、本人が多重録音しているのだろうか。
それはそれで評価したいが、
閉塞的な印象を受けてしまうのはそのためかもしれない。
そして、逆説的だが、その人脈の広さも評価したい。
しかし、軽い期待外れを味わったのも事実である。
他の作品に期待する。ユーミンはよかったが。


 オマケとして、このCDはPCでみれるPVが収録されている。畠山美由紀の曲がそれで、映像はなんてことはない車内からのドライブ風景だが、こういう試みはもっとあってもいいと思う。

シップビルディング

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