『hi note』, Gerardo Frisina, 2004, Italy, Schema

今年購入したクラブ・ジャズのアルバムの中で、文句無しに一番のもの。
ジャケ買い」または「推薦文買い」で最も「当った」アルバムでもある。

Gerardo Frisinaとは変わった名前だが、
イタリアのクラブ・ジャズレーベル、「Schema」を代表するバンドのようだ。
最近では、Mr. Routine Jazzこと小林径がさかんにこのレーベルの紹介を行っている。

SCHEMAは、「ジャズとボサノヴァをルーツにした音楽を、
今日のテクノロジーを用いて表現する」というコンセプトを核に
『Break n’ Bossa』シリーズをリリースしてきたが、
この『hi note』はまさにそれを実践しているアルバムだ。
ピアノ、テナー、トランペット、ヴァイブ、ウッドベース、ドラム、パーカッションと、一応クレジットにある楽器は皆アコースティックだが、
アルバムとしてスタジオで録音、ミックスする際に、
「今日のテクノロジーを用いて」かなりいじられているに違いない。

それは、①の「Inviolatin」からして既にそうで、
ミュートしたスネアのようなパーッカションの音と4つ打ちの音は
恐らくMPCなどによって創られたものだろう。
この手法は②のブレイクビーツドラムンベースが混じったようなリズムパターンでも使われているし、⑦で絶妙のタイミングで入ってくる4つ打ちもそうだ。
しかも②ではアイソレーションまで使われている。

『hi note』という音楽に私が刺激を受けたところ、
そしてGerardo Frisinaというユニットの才能は、
この生音とテクノロジーブレンドの仕方にあるのだろう。
注意せずに聴いていれば、「ラテンの影響が強いクラブジャズか」程度の印象しかないが、細部を聴きこめば聴きこむほど新しい発見がある。

トランペットとテナーは、セクションプレイの他にもちろんソロもとるが、
自己を顕示するようなソロはとらない。
あくまでクラブミュージックの一部として、
リズムを強調したフレーズなどの単調なフレーズをトラックにのせているというプレイだ。
特に、リズム楽器と化したピアノの裏の打ち込みなどは感動的ですらある。

これが徹底されたのが⑦の「Cubana」で、この曲にはもはやテーマはない。
トランペットのリフが辛うじてテーマらしきものを提示しているが、
しかしそれも曲全体のアクセントという意味合いの方が強い。
しかもコードはJBの「Sex Machine」のように2つしかなく、
AパートとBパートでそれぞれコードが一つだけ。
で、こんな構成で曲になっているかというと、これがきちんと曲になっているのである。
それもかなり劇的な展開だ。
つまり、この曲では曲の展開がコード進行なのではなく、
ブレイクやパーカッション、リズムの変化によって支配されているのであって、
これはテーマやコード進行によって曲の構成が決まる、というバークリー理論
(とするとどうしても菊池成孔っぽくて嫌なのだが、
実際に私は菊池の本から学んだのだから仕方がない)のカウンターを
体現しているといえないだろうか。
そして、これが難しい顔をしながら聴く音楽ではなく、
サイコーに気持のいいクラブミュージックなのだから大変だ。

ジャケットもいいし、とにかく一人でも多くの音楽を愛する人に聴いて欲しいアルバムである。
雑誌『remix』の、去年のベストアルバムにも選ばれたらしい。

ただ、最後に難点を挙げるならば、
それはいささかアルバム全体としてのまとまりに欠けることだろう。
Tr.12、最後の「On the Edge」は、
ラテンを崩したブレイクビーツやD n’Bなどのリズムの中、
トランペットなどのソロが展開する曲だが、このアルバムの最後として適切かどうかは疑問である。
さらにTr.5の「Beyond The Moon」はAlan Farringtonがヴォーカルをとるが、
これは全く蛇足ではないか。
なんてことはないボサノヴァ(厳密には違いそうだが)がノスタルジー剥き出しの4ビートに変わるだけの曲で、このアルバムに入れた理由がわからない。

しかし、そうしたアンバランスさを差し引いても、『hi note』の素晴らしさは損なわれない。
たくさんの人とこのアルバムの話がしたい! 
どういうわけか、私の周りではこのアルバムを聴いた人がいないのだ。
なんでだろう? 
結構評判になったアルバムだと思うのだが…   

Hi Note

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