アメリカン・ラディカルの一人であり、著名な言語学者でもある著者による
9.11直後に行われたインタビュー集。
時期的に考えて緊急出版だったのであろう、チョムスキーの叙述はなく、
すべてインタビューで構成されている。
それゆえ、重複もあり、全体としてまとまりに欠ける印象は拭えない。
内容は、邦訳の副題に全てが集約されている。
即ち、「アメリカ自体が「国際的テロ国家」なのだから、アル・カイダ・ビンラディン・国際テロネットワークに対して報復する資格はない」ということである。
著者はパレスチナ問題におけるイスラエルへの偏った支援などを例にあげながら、アメリカの行っている軍事介入は、アメリカ自身による定義、「政治的、宗教的、あるいはイデオロギー的な目的を達成するため、暴力あるいは権力の威嚇を、計算して使用すること。これは、脅迫、強制、恐怖を染み込ませることによって行われる」(一〇一頁)にあてはまるとする。その最も明らかな例として著者が挙げるのがニカラグアへのそれである。
1986年、アメリカは国際司法裁判所で「無法な力の使用」(国際 テロ)の廉で有罪を宣告された上に、すべての国(即ちアメリカ を含む)に国際法遵守を求める安全保障理事会の決議に拒否権を 発動したことがある。」
また、ビンラディンとその国際テロネットワーク、アル・カイダに関しても、慎重な定義を行う。
「アフガニス」
CIAが支援した軍事組織。アフガン戦争の後、チェチェンへ移動。
米国とその同盟国が自分達の目的のために設立した軍事組織。
いわゆるビンラディン・ネットワーク。
極めて序列構造に欠け、極めて分権化されている上に世界の大部分に散らばっているので、概ねアクセス不可能になっている。9.11テロも、アル・カイダが関与しているのは確かだとしても、ビンラディンが関与しているかどうかは分からない。
2005年現在では半ば常識となっていることだが、この本の内容がテロ直後に発表されたことの重要性は損なわれない。このようなアメリカン・ラディカルの意志は継承していかなけらばならない。
去年の2004年は、サイード、ソンタグとアメリカの知性を失った。
アメリカではないが、デリダも亡くなった。
彼らの主張を無批判に受け入れるのでなく、その姿勢――サイードの定義する「知識人」即ち、自分の専門と無関係なことにも首を突っ込むこと――を見習いたい。
また、この著作で知った、ロバート・フィスクの著作と、
『西側国家のテロリズム』(アレックス・ジョージ編。10年前に出版。アメリカでは禁書扱い。)も読みたい。
もちろん、チョムスキーの他の政治的な論文集も。
- 作者: ノームチョムスキー,Noam Chomsky,山崎淳
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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