『二十一世紀の資本主義論』、岩井克人、二〇〇〇年、筑摩書房

東大の経済学者、岩井克人の論文及びエッセイ集。


はじめて『ヴェニスの商人資本論』を読んだときは、
あまりの面白さに眩暈がした。
バイト先へ向かう電車の中で、興奮しながら貪り読んだのをおぼえている。


氏の刊行本は本書であらかた読んだことになるが、氏もあとがきで
書いているように、やはり「資本主義について、貨幣について、
手を変え品を変え同じことを語っている」のはいつも通りである。


「日本の資本主義は純粋な資本主義ではない」
という世間一般の批判に対する氏の反論、

「日本の資本主義がはらむ多くの問題点は、それが生身の人間の支配を
排除することによって、法人なるものを資本の人格的な担い手とした、
資本主義の純粋形態を実現してしまったことから生まれてきたものだということである」


は、

「法人とは、モノでありヒトである。
 (→ 株主は「モノ」としての法人を所有し、「ヒト」としての法人は
  会社資産を所有する)」

という法人の二重性格に注目するものであり、現在の氏の関心がここにあることが窺える。



他にも、明治時代に organ は「器官」と「機関」に訳し分けられたが、
これは「ヒト」であり「モノ」である法人が、自分自身で契約を結べないため、
経営者がその代わりに、いわば法人の「器官」となって契約を結ぶべきで
あることの反映であることを指摘し、法人と経営者の関係は「信任関係」
(fiduciary relation)であるべきである、とする論文は面白い。


だが、中でも氏の本領が発揮されるのは、やはり『ヴェニスの商人資本論』に
代表されるような、他分野を経済学の観点から分析する書き物だろう。

本書にも、パリのヴァンドーム広場中央銀行の雛型を設立したジョン・ロー、
アリババを盗賊の襲撃から救ったマルジャーナ、井原西鶴の『日本永代蔵』、
世界最古の「美人コンテスト」であるギリシア神話の「パリスの審判」
などについての興味深い分析がなされている。


また、「憲法九条および皇室典範改正私案」という朝日新聞
掲載拒否された書き物も収録されており、氏の今後の方向性を知る意味で楽しみである。

しかし、本書の題名はもう少し何とかならなかったのだろうか。
もちろん題名に嘘偽りはないが、あまり手に取りたくなるものでもないような…。

二十一世紀の資本主義論

二十一世紀の資本主義論