恐らく、僕はこの映画を何年おきかに観続けるだろう。
数十年後、仕事を引退したときに昔を想いだしながら観たくなることだろう。
そんな気にさせる映画なのである。
一言でいえば、老人と茶猫のアメリカ横断ロード・ムービー。
ニューヨークの市政の関係で立ち退きを余儀なくされた元英文学の教師である
老人ハリーが、やはり年をとった茶猫トントとともに息子達を訪れ、
西海岸まで旅をするだけの話なのだが、
この旅の途中で彼らが出会う人々や出来事が興味深い。
ヒッピー文化のなれの果てのコミューンに行く家出少女、
議論好きでハリーと衝突してばかりいる実の娘、
ゲットーに住みながら少なくとも表面上は明るく生きるアフロ・アメリカン。
これらの人々は当時のアメリカ文化の象徴だ。
最後にハリーが出会うのが、西海岸で独りで暮らす
ユダヤ人の老婆であるのも興味深い。
動物を使いながらも客に媚びることなく、
偏屈な老人が人生の最後に改心するというステレオタイプでもない。
ハリーは伝統的な倫理観を振りかざして若者を説教するのでなく、
常に視線を同じくして悩める人々と自分自身の生き方を探す手伝いをする。
大概のアメリカ映画に愛想を尽かしていながらも、
僕がアメリカ映画を観続けるのは、こういう映画に出会えるからだ。
つまり、最良な時期のスパイク・リーの映画
(例えば『ドゥ・ザ・ライト・シング』)が体現しているような、
「政治的で人種問題などのマルチカルチャリズムの問題意識に
貫かれていながらも、映画としての面白さ・強度を失わない映画」。
そんな映画に出会えたことを嬉しく思う。
もちろん、ロード・ムービーという形式の観点から考えても、
この映画は成功している。
ロード・ムービーは、ひどいものだと怠惰な時間に
だらしなく付き合わされるだけの作品になってしまうものだが、
この映画は、アメリカの「どこまでも続く中西部の砂漠」、
「限りなく美しい西海岸」といった「アメリカの風景」が上手く活かされている。
なんだか、ヴェンダースがまた観たくなった。
『ハリーとトント』、DVD化されないだろうか。
補足:ハリー役のアート・カーニーはこの映画で
アカデミー主演男優賞をもらったらしい。
アカデミー賞も捨てたもんじゃない。
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