苦境に陥った時、孫悟空は体の毛を抜いて息を吹きかけ、たくさんの分身を作り戦わせる。
須賀敦子さんのお母さんは敦子さんの弟が泣き止まない時その子の頭髪をつまんで息を吹きかけ、お前の分身が泣いているからお前はもう大丈夫、と言っておまじないをすることがあったという。(『塩1トンの読書』)
これは「痛いの痛いの飛んでいけー」と同じまじないだ。
私が小さい子供の頃は、手足のすり傷には母が唾を塗って「これでもうだいじょうぶ」と言ってくれた。そのときいつも母は私を見つめていた。その笑っている瞳が私は大好きだった。