著名医の団体 所得隠し 慈恵医大教授 起業「出展料」巡り

これは…起業の展示が「席貸業」であり、収益事業に該当する、というところがポイント。
最後の国税局OBの言葉にあるように、「団体の設立目的や事業で得た資金の使い道とは関係なく、事業の実態が34業種に該当するかどうかで判断される」ので、判断基準を誤らないようにしなければ。


血管外科「名医」の団体、9千万円所得隠し 国税指摘

 血管外科の名医として知られる東京慈恵会医科大外科学講座統括責任者の大木隆生教授(54)が代表を務める二つの関連団体・法人が東京国税局の税務調査を受け、7年間で計約9千万円の所得隠しを指摘されたことがわかった。大木氏の手術を中継して見学するシンポジウムで、医療機器を展示した企業から「出展料」を得ていたが税務申告しておらず、これらが「収益事業」と認定されるなどした。

国税、9,000万円指摘

 追徴税額は重加算税を含め計約2千万円とみられ、2団体はそれぞれ期限後申告と修正申告に応じ、納税しているという。

 関係者によると、指摘を受けたのは、任意団体「Japan Endovascular Symposium研究会」(東京都港区、JES研究会)とコンサル会社「Endovascular Japan」(同、EJ社)。それぞれ、2015年12月期までと16年2月期までの7年間について指摘を受けたとされる。約9千万円の指摘金額の多くはEJ社に対するものだったという。

 JES研究会は大木氏が立ち上げ、06年から毎年夏に、血管病の治療技術向上を目的にしたシンポジウムを同大で開催。大木氏による手術を中継し、参加者の医師に見学させる「ライブ手術」などを実施している。会場では医療機器の展示もあり、研究会は企業から出展料を得ていたが税務申告していなかった。

 国税局はJES研究会について、税法上、収益事業で得た所得が課税される「人格のない社団」に該当し、企業の展示は収益事業のうち「席貸業」に当たると認定。申告する必要があったのに、無申告を続けていたと指摘したとみられる。

 大木氏側は「収益事業という認識はなかった。仮に収益だとしても、収益と非収益で共通にかかる経費を割り振れば、そもそも所得は生じない」などと主張したが、認められなかったという。

 さらに国税局は、研究会が経費として処理していた支出の一部について、「研究会の業務と関連がなく、本来はEJ社が負担すべき交際費に当たる」などと指摘した。研究会はシンポジウムの準備や打ち合わせの際の飲食費などとして経費で計上していた。国税局は、研究会名義で領収書を受け取るなどしていたため、故意に付け替えたと認定したとみられる。

 大木氏は取材に、「意図的な所得隠しや私的流用はない。シンポジウムのための情報収集や企画に必要な経費を研究会で落としたが、シンポジウムの開催期間中の費用しか認められなかった」。修正申告などに応じた理由を「調査を早く終わらせて、手術に専念するためだった」などと話した。



NHK「プロフェッショナル」でも紹介 「ライブ手術」見学に1千人

 大木氏は、バネ状の金属がついた人工血管を使って大動脈瘤(りゅう)などの治療を施す「ステントグラフト内挿術」の第一人者として知られる。足の付け根の動脈から挿入し、患部の内側で固定することで破裂を防ぐものだ。医療機器の開発者の側面もあり、関わった血管外科用の医療器具が「大木インベンツ」のブランド名で販売されている。

 著書やウェブサイトによると、06年の第1回のシンポジウムでは、病院の手術室と大学の講堂を光ファイバーでつなぎ、講堂で見学する医師の質問に手術室で答えながら、2日間で20件の手術を行った。11回目となった昨年は、こうしたライブ手術の見学などのため、全国から1千人近い参加者が集まったという。

 大木氏は1987年に東京慈恵会医科大を卒業し、95年に血管外科分野の先進国である米国に渡った。2006年に帰国し、母校の教授に就いた。07年からは外科学講座にある六つの診療科を束ねる統括責任者を務めている。

 09年にNHKの番組「プロフェッショナル 仕事の流儀」で働きぶりが紹介されるなど、朝日新聞も含めてたびたびメディアが取り上げている。06年には雑誌ニューズウィーク日本版で「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれた。(磯部征紀、田内康介)

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 〈人格のない社団〉 町内会、PTA、労働組合、マンションの管理組合でも該当するものがあり、収益事業を営む場合は税務署に届け出が必要。収益事業で得た所得は課税される。対象事業は税法で定められ、物品販売業、不動産貸付業など34業種ある。問題となった席貸業もその一つ。国税局OBの税理士は「団体の設立目的や事業で得た資金の使い道とは関係なく、事業の実態が34業種に該当するかどうかで判断される」と話す。

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