『文章力の基本』、阿部紘久、日本実業出版社、二〇〇九年



文章力の基本

文章力の基本

「文章術」分野での、2009年下半期のベストセラー。
薦められたので購入。
翻訳会社のトライアルを目前に控えていたので、即読了。
ヨコ書き、1項目数ページ、悪例の原文とその改善例を提示するなど、
非常に読みやすい構成で実践的な内容だった。
さすが、「文章力の改善」をうたっているだけある。
通勤時間などであっという間に読み終えることができた。


で、得たものはというと……実はあまりなかった、というのが正直なところ。
ただ、これは「内容が薄い」ということではなくて、
「そうそう、そうなんだよね」と思うところばかりだったということ。
自分もそれなりにクリアーな文章を書けているのかもしれない、と少し自信がついた。


「読み手に頭を使わせない」、「主役は早く登場させる」、
「省略された主語は変えない」など、
各項目の見出しだけ読んでも十分役に立つ。


「おわりに」が素晴らしいので、いつものように引いておこう。

この本で説いてきた「良い文章=明快な文章」とは、何でしょうか。


第一にそれは、「言いたいことが明確な文章」です。これが出発点です。言いたいことが自分でもよくわかっていないときに、表現の工夫をしても意味がありません。


第二にそれは、「頭を使わなくても、読むそばからスラスラ分かる文章」です。文章は、「最後まで読んで考えれば分かる」ではいけません。ましてや何を言いたいのだろうかと、読み手が頭をひねるようなことがあってはなりません。
読むそばから楽に理解できて、その後に読み手の中に様々な思いがふくらんでくれれば理想的です。つまり、読んでいるときには頭を使わず、読んだ後に頭を使いたくなる文章が良い文章です。


第三にそれは、「簡潔な文章」です。ぜひとも伝えたいメッセージの周りに、余計なコロモがたくさん付いているは、大変に困った文章です。伝えたいことが、ノイズの中に埋もれてしまうからです。
この本で説明した77のヒントは、主としてこの3つの条件を満たすためのものでした。


よい文章を書くための基本的な資質も、3つあると思います。


第一に、「自分の頭で感じたり、考えたりする習慣」です。誰でも毎日、朝起きてから夜寝るまで、さまざまな経験をしながら、色々なことを感じたり考えたりするように元々できています。
しかし、いつの間にか自分の実感をどこかに置き忘れて、他人の言葉を借りて生活している人も少なくありません。それでは、自分の言いたいことが明確になるはずがありません。


第二に、「相手の身になって感じたり、考えたりする想像力」です。このことは、本書の中で一貫して強調してきました。自分の考えを明確にしてそれを表現した後で、一旦、自分自身のことはすべて忘れて、白紙で初めてその文章を読む人になりきってみることが必要です。つまり、いい意味での二重人格を持つことが求められます。それは、訓練によってかなりの程度までできるようになります。


第三に、「健全な言語感覚を持つこと」です。文章力の根幹を占めるのは、考えを組み立てる力であり、相手を理解する力ですが、最後に出番がくるのが的確な言語表現力です。これなくしては、文章になりません。

「読んでいるときには頭を使わず、読んだ後に頭を使いたくなる文章が良い文章です。」
の一文は見事。まったくそのとおりだと思います。
後半の「想像力が大事」というところなども同意。わたしが言いたいことが全部書かれてしまっている。



面白かったところを一箇所だけ。

「私の特徴」という題のある文章の冒頭を、私は次のように直しました。


【原文】
人間は元来多面的な生き物で、いわゆるほかの動物の特徴と呼べるような人くくりの言葉でその特徴を言い表すことは難しい。私個人の特徴となると、さまざまな部分の集合体であるからさらに難解さを増す。外面的な特徴か内面的な特徴かと迷うところではあるが、私はよく人に「竹を割ったような人」と評されるので、このことに着目し、私の特徴について述べることとする。


【改善】
私はよく人に、「竹を割ったような性格」と評される。

ここ、笑うとこだよね?

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