ユダヤ人と日本人とにせユダヤ人と日本人

ユダヤ人と日本人』、イザヤ・ベンダサン、角川文庫ソフィア、一九七一年
『にせユダヤ人と日本人』、浅見定雄朝日文庫、一九八三年


「日本人は平和と水はタダだと思っている」という
有名な言葉の出典として有名な本。
中曽根首相が国会で引いて有名になった。
この本は大宅壮一賞までもらったそうな。


今読んでみると凡庸な比較文化論で、
当時ウケタのはやっぱり作者がユダヤ人だったからだろうな。
もちろん、ぼくが生まれる前の本なので、
社会がこの本をどう受け止めたか、というのは実感出来ないが、
大方、今でいう『国家の品格』(または『声に出して読みたい日本語』)
くらいに受け止められたんじゃないのだろうか。


冒頭の言葉に加えて、この本を有名にしたのは作者をめぐる疑惑。
イザヤ・ベンダサンというユダヤ人は架空の人物で、
山本七平」なる日本人がその正体ではないか、というのだ。
それを暴いたのが『にせユダヤ人と日本人』。


少々意地の悪い暴き方だが、作者の浅見定雄の指摘によると、
イザヤ・ベンダサンの本はいわゆる「トンデモ本」だ。
英語の誤訳、牽強付会のオンパレード。
特に面白かったのが、

・著者 イザヤ・ベンダサン
・著者 イザヤ・ベンダサン  翻訳 山本七平 
・著者 山本 七平

と著書のクレジットが変わっていくところ。
なんかミエミエなんだけど、
山本七平が本当に「にせユダヤ人」だとして、
こんなことしてバレないと思ったのかな?


疑似科学」と同じくらい、日本人ってこういう「比較文化論」に弱い。
これは自戒を込めて言うんだけど。


でも、この本が「右」な人々に支持された本
(というか「右」な人によって書かれた本)であるのは面白い。
おそらく、比較文化論が日本で人気があるのは
日本人の自信のなさが反映しているのだと思うけど、
浅見定雄によれば、
山本七平は「ユダヤ人」という外国人の権威を借りて
そこに付け込んだのだそうだ。


時代を象徴する本として勉強になった。

日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)

日本人とユダヤ人 (角川文庫ソフィア)

にせユダヤ人と日本人 (朝日文庫)

にせユダヤ人と日本人 (朝日文庫)