『真夜中のジャズマン』、柳沢きみお、実業之日本社、2006年

柳沢きみおのジャズ漫画。
いや、正確には「ジャズマン」漫画。
柳沢きみおは前から苦手だったが、
ジャズを題材にしているようなので読んでみた。
が、やっぱりダメ。
ぼくは好きになれない。
その理由を二つの面から述べる。


一つ目。
漫画としての面だけど、まず絵がダメ。
柳沢きみおのキャラクターは独特のタッチで、
一発でこの人の絵だとわかるけど、これってオリジナリティなのか?
とても上手とはいえないし、
かといってヘタウマというほど味があるわけでもない。
この人の絵を見るとぼくはいつも無性に哀しくなるんだよな。
もう少し上手くなれよ、と。
構図としても、キャラクターのアップばかりで凝ったところもない。
で、物語の構成もご都合主義。
これは二つ目の点とも関係してくる。


二つ目、ジャズを題材にしていることについて。
なによりもこれがひどい。
酒場のジャズピアノ弾きに憧れて商社を退社する男が主人公。
順風満帆の生活だったのに、独学で勉強したジャズピアノに惹かれ、
ふとしたきっかけから本職のピアノ弾きに認められ、
会社を辞めてバー専属のジャズマンとなる。
そこで水商売特有のトラブル、特に女性関係に苦しむことに成るのだが…。
はっきりいって、音楽的な葛藤は全然伝わってこない。
時々申し訳程度にパーカーやマイルスのことが
一口メモのような形で紹介されるだけ。
しかも主人公はビル・エヴァンスが好き、というんだもんなあ…。
いや、ビル・エヴァンスはいいと思うんだけど、
なんか安易なんだよね、
『ワルツ・フォー・デビー』好きです! みたいな。


結局、この漫画を読んで思い出すのは女の話だけ。
主人公からアプローチしたわけでもないのに
いつのまにか三角関係ならぬ四角関係で苦しみ、
専属のバーを経営するのは美人オーナー。


アオリ文句が
「男! 女!! 愛と情念の旋律」
というんだけど、これは外れてないよ。
柳沢きみおが「ジャズ」という言葉でイメージするのが
こういう世界なんだろう。
「ジャズ」というよりも「ジャズマン」か。
読む前からあまり期待してなかったけど、
やっぱりガッカリだな、
ジャズ漫画がこういうステレオタイプでしか描かれないのは。


こういう漫画を読むと、
本当に「ジャズ」って、
一般的には狭いイメージでしか捉えられてないんだな、と思う。
細野不二彦の『BLOW UP!』にも不満だったけど、
この『真夜中のジャズマン』に比べればはるかにましだよ。
ちなみに細野不二彦が「ジャズ」に投影したものは
「若者の音楽」「成長の物語」。
もっとも、ある時期の細野不二彦の漫画は全部これがテーマなんだけどね。


音楽漫画について書くと、最後は『BECK』の話になるが、
BECK』はやっぱりすごいや。
物語として十分楽しめて、かつ音楽面の描写にも満足できる。
ハロルドの次回作は『BROWN』でトランペッター漫画を。


真夜中のジャズマン (マンサンQコミックス)

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