『ZETMAN』(5)、桂正和、集英社 

桂正和の作品には、二つの傾向があると思うんだな。
一つは「ヒーローもの」で、もう一つは「美少女もの」。


「ヒーローもの」ってのは『ウイングマン』や『ヴァンダー』がそうで、
仮面ライダー」とか「ギャバン」「サンバルカン」などの、
タイトルに「○○戦隊」といった名前のつく「特撮もの」の漫画。


「美少女もの」は『電影少女』や『I’ S』がそうで、
ぼくはこちらにはあんまり興味がない。


ぼくが桂正和と初めて出会ったのは小学生の頃の『ウイングマン』。
これには夢中になった。
なにしろ小学生だから、
勧善懲悪、努力を評価するプロットに単純に感情移入してたんだと思うけど、
今から考えると、やっぱり様々な面で上手だったんだと思う。
絵が上手いのはもちろんなんだけど、ギャグのセンスとかもよかったし、
話の流れっていうのかな、「物語を伝える温度」の調節も絶妙だ。


だから、その後に『電影少女』とかを始めたときはちょっとガッカリしたな。
話自体としては、ラブコメとかじゃないんだけど、
結果としてエロをネタにして読者を獲得してしまうというか……。
多分、桂正和も思ってたよりも反響が大きくてビックリしたんじゃないかな。
もちろん、「女の子の顎の線に美を感じる」とかどっかで言ってたように、
もともとカワイイ女の子を描くのが好きな人なんだとは思うんだけど。


その後の作品は、なんか痛々しくてちゃんと読んでない。
なんか、数字が取れるからカワイイ女の子を描いてるような気がして…。
これらの作品は描きたくて描いてたのかな?


でも、ぼくが桂正和を見捨てられなかったのは、
ZETMAN」という短編があったから。
編集部には評判が悪かったみたいだけど、ぼくはこの話に惹かれた。
「悪」ってなに? 真の「正義」って存在するの? という、
よくあるテーマだけど、結論がなかなか面白かった。
もちろん、議論は全然不十分で結論も中途半端で、
漫画の力でなんとか読ませちゃうって感じなんだけどね。


そして、『I’s』も終わり、始まった連載のタイトルが『ZETMAN』。
これに期待しないわけはない! 


で、肝心の出来なんだけど…………これが面白い! 


主人公の名前も短編と同じ「ジン」だし、
桂正和も短編の「ZETMAN」を温めていたんだろうね。
物語としては、今のところ善悪の話はあまり前面にでてきていない。
最終的なテーマとしてはそこに落着すると思うのだけれど。


読んでて嬉しいのは、
これまでの桂正和のエッセンスがすべて注ぎ込まれているところ!
絵の上手さは衰えていないし(それどころかどんどん上手くなってる!)、
物語のプロットもまあまあ練られているようだ。
「ヒーローもの」と「美少女もの」の二つの傾向が
うまく統合されているように感じる。
これまでカワイイ女の子を描いてたのは、
画力を上げるための修行だったのかな、と思うくらい*1
もしかしたら、『D.N.A.』や『Shadow Lady』も
二つの傾向を統合させる試みだったのかもしれない。
けど、あれはまだ時期が早かった。


考えてみれば、ぼくが『ウイングマン』を読み始めてからもう20年が経つ。
それだけの長いキャリアを持つ漫画家なのだ、やっぱり計算づくなのだろう。
ZETMAN』、ひとまず「コウガ編」も落着したみたいだし、続きが楽しみだ。
ぼくは本当に期待しているんだ。            


ZETMAN (ジャンプコミックス)

ZETMAN (ジャンプコミックス)

  
ZETMAN 5 (ヤングジャンプコミックス)

ZETMAN 5 (ヤングジャンプコミックス)

*1:もしかして、浦沢直樹のように?