三階は「さんかい」か「さんがい」か

この現象、「連濁」といいます。

 

三階は「さんかい」か「さんがい」か

言いやすい方が選ばれる例をもう少し観察してみましょう。「派出所」が「はつっしょ」、「新宿」が「しんじく」、「手術」が「しじつ」、「シミュレーション」が「シュミレーション」と発音されるのは言いやすさのためではないでしょうか。井上ひさしさんはこれを「口は怠け者である」と言っています。(『ニホン語日記』文芸春秋

 

ニホン語日記 (文春文庫)

ニホン語日記 (文春文庫)

 

 

簡単な方を選ぶのは人情としてわかりますが、一貫していないのも人情です。「シャ、シュ、ショ」が言い難いから「シ」と発音し、「ジュ」が言いにくいから「ジ」の発音にいつでもなるかと言えばそうでもありません。授業(ジュギョウ)が「ジギョウ」になると「事業」に誤解されます。「文芸春秋社」は「文藝心中者」になってしまうので、これらは正確に発音されているのではないでしょうか。

 すこし道草をしましょう。井上ひさしさんは「茶畑」が「ちゃばたけ」と濁り、「田畑」は「たはた」で濁らない。それは2語の主従関係によると説明します。「茶畑」では「茶」が従、「畑」が主です。このときは2語の間に「の」が入って「茶の畑」となります。この従+主のときに濁る。「田畑」はどちらも主で、そのときは「と」を補うと「田と畑」で、濁らない。

語の構成要素に主従の関係が成立したら濁る、そう覚えておくといいですね。「三階」は「三と階」ではなく「三の階」ですから「さんがい」になります。

井上ひさし『日本語教室』)

 

日本語教室 (新潮新書)

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 なるほど、と目からうろこが落ちそうになりましたが、井上さんも例に挙げていますが、「人々」は「人と人」で主従関係が成立しないのに「ひとびと」と濁るように、この連濁という問題は説明に何時間もかかる大問題なのだそうです。大問題だから、井上さんは「一階」「二階」は濁らないのに「三階」だけ濁るのはなぜか、については意識的に知らん顔をしています。

建物の一階、二階の次は何階でしょう? 「三がい」なんですよ。若い人は「ちょっと三かいに行ってきます」なんて平気で言いますね。こういう日本語の決まりがいまぐずぐずになっているんです。(同)

 

さて、井上さんも自家撞着に陥っているので、「二階」「三階」は、言いやすさで説明するのがよいと思います。「さんかい」より「さんがい」のほうが言いやすい。言いやすいのに、若い人たちは「さんかい」と言っているのは、「さんかい」が今の若者には言いにくくないのです。「彼氏」を抑揚のない平板な「かれし」というように「さんかい」も平坦に発音すれば楽に言えます。

 でも、回数の「3回」は主従関係なのに、濁りません。言葉の問題はいつも尻切れトンボで明解な結論は藪の中です。

 

この「連濁」、たしかに面白い現象ですね。

「ライマンの法則」なんてものもあるようです。