そういえば、その昔「いかす! バンド天国」、通称「イカ天」という番組もありましたね。
あ、そういえば遅ればせながらブログアイコンを設定しました。
イカス
司馬遼太郎はアメリカが生み出したジーパンを「文明材」と呼んだ。その文明材について次のように説明している。
この場かぎりの私製語で、強いて定義めかしくいえば、国籍人種を問わず、たれでもこれを身につければ、かすかに“イカシテイル”という快感をもちうる材のことである。
続いて、イスラム教徒などが頭部に巻くターバンはそれを共有する地域以外では「イカしもせず、異様でさえある」と言う。ソ連の青年でさえはきたがるジーンズは、国産品は「生地の微妙なところがイカさず、人気がなかったといわれる」と言ってもいる。
さて、ジーンズ論議が目的ではない。「イカス、行かす」は男が女を性的絶頂に達しせしめるというのが原義らしいが、石原裕次郎が映画で「カッコイイ、魅力的」の意味で使い流行したと言われる。
なるほど、「イカス」の変遷はよくわかりました。裕次郎のセンスは素晴らしいと思います。特にわたしが素晴らしいと思ったのは、「イカス」という言葉を他動詞から自動詞へと変えたことです。
性的絶頂を表す「イク」という言葉ですが、これは自動詞。
自分が絶頂に達するときに「イク」というわけです(ちなみに、英語なら「I'm comin' !」ですね。これだけでも一本論文が書ける/書かれていると思いますが、割愛)。
で、これが他動詞となると、「イク」は五段活用なので「イカせる」になります。まあ、気心の知れた友人やプライベートな場で使われる言葉ではないでしょうか。
裕次郎のセンスが光るのは、この「イク」という語を、誤った形で変化させて、形式的には他動詞なのに、あたかも自動詞のように使って「イカす」という言葉を発明したことです。
いやあ、冷静に考えると、これはすごいセンスです。
①「君、イカスね」
②「あいつ、イカしてるよなあ」
両方とも自動詞として使われています。または、「周りの人々」という周知の目的語を省略した他動詞として使われています。まあ、この言葉を使うときは自動詞として使うのではないでしょうか。
ただ、「イカす」という言葉は、形式的には他動詞です。それも、変化を間違えた形での。
正しくは「イカせる」ですよね。
裕次郎の素晴らしさは、この誤変換、誤活用の言葉を、あたかも昔から存在してたかのような然るべき文脈で使ったことです。これはセンス、同時代への嗅覚としかいいようがありません。すごいなあ。
さて、このように、元々は日常的には使うことが憚られるような性的な意味を持つ言葉が日常的な言葉として使われる例、実はまだまだあるようで、「手練手管」なんてのもそうらしいです。
これは江戸時代の遊女が、お客を「イカせる」ために手で管をつくったことに由来しているそうで、あまり(というか、かなり)品のいい言葉ではない、とのことです。わたしはこのことを小谷野敦先生の本で知りました。
さて、このように一世を風靡した「イカす」ですが、最近はあまり使われません。というか、古い言葉、ダサい言葉として敬遠される傾向にあると思います。
これは、「イカす」の代わりに「イケてる」という言葉が使われているためです。関西弁、関西発祥の言葉ですが、「イカす」が廃れかけていたときに「めちゃイケ」が始まったこともあり、爆発的に広まりましたね。
英語なら。「hip」「cool!」といったところでしょうか。
今後、「イケてる」の変遷も見ていきたいと思います。
あと、しつこいようですが、このブログのアイコンを設定しました。
ブログタイトルの通り、映画『スモーク』から。
続編というか、そのスピンオフが『ブルー・イン・ザ・フェイス』です。
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